1729 ゴーンの人質司法批判/万引窃盗で70年の会社が身元引受・保釈金支出でも保釈を認めぬ刑事司法は異常-公判に影響しない事実で「罪証隠滅」は背理

昨日れいわ2年1月8日,国外逃亡したゴーンが顔出しで日本の人質司法に対して,大批判をくわえました。
先月30日にはワシントンポストに投稿したとのことです。

また,過去何軒も無罪判決を取っているゴーンの弁護人だった弁護士のブログも,痛烈にこの人質司法を批判しています。
↓ここに概要あります。


【やはり刑事司法はおかしい】
元裁判官の私からみても,ちょっとこれはと思うことがあります。

万引き事件の6名共犯事件です。
手口はカゴダッシュです。
つまり店の買い物カゴを共犯者の1人が持って,他の共犯者全員が思い思いの商品をそこに入れていき,最後カゴを持った1人がカゴごと店外に出るというもの。

    1 共犯者も含め,被告人は,犯罪事実は全部自白(被告人は同種前科あり)
    2 被告人は,起訴と同時に起訴状事実は公判で全部認め,検察官提出証拠は全て同意する旨の上申を検察庁及び裁判所に提出。
    3 共犯者はいずれも少年であるが,共犯者間に上下関係はなかった(全員の供述一致)
    4 被告人と内縁の恋人は,他の共犯者が自宅に来る前は,2人とも真面目に働いていたが,他の共犯者の来訪で1週間生活が乱れる中での犯行だった。
    5 被告人は,犯行後共犯者とは縁を切った。
    6 被告人はその後70年の歴史のある会社(HPあり)に就職して5か月休みなく真面目に勤務していた(勤務表も有り)ところを逮捕された。
    7 会社は,被告人に寮をあてがっていたのみならず,社長が身元引受人になり,なおかつ社長が保釈金を出すと言ってくれた。
    8 検察官は,前歴が多いために少年院に行った少年に,「カゴダッシュは,被告人が言い出した」と言わしめた。何故かその少年と実際にカゴダッシュした共犯者の2名だけ検察官面前調書を作成した。他の何人かは,「カゴダッシュは被告人が言い出したのではない」としていたが,検察官面前調書は作成しなかった。
    9 被告人は,世話になっている会社で1日でも多く働きたいので保釈を申請した。

にもかかわらず,第1回公判期日前の保釈請求は3回とも全部棄却,準抗告も通らず
曰く,「罪証隠滅のおそれがある」
は?公判で自白し,かつ検察官請求証拠は全部認めると上申してますけど?

「罪証隠滅の対象は,重要な情状事実である」
食い違う点は,カゴダッシュを言い出したのは,被告人か現に実行した人かのみ。
しかも6人共犯中,意見は二分されていた。
・・・・ってことは,公平に見ても被告人の言い分が正しいこともあり得るということでは?

    なお,私は10回記録を読み直しましたが,被告人が言い出したとは思えませんでした。その店は自宅から遠方で,犯行時が2回目の来訪のため,店のセンサーの位置すら知らなかったため,カゴダッシュの実行犯をしてそのセンサーに引っかかる墓穴を掘らせてしまったからです。


【この万引きで意見の食い違いは,争点にもならず,量刑に全く影響しない事実】
被告人を含む共犯者全員は完全に犯行を認めています。
カゴダッシュ方式によって盗ることの認識認容も,被告人を含め全員あります。
そんな中で,誰がカゴダッシュを言い始めたかなどというのは些末に過ぎます。

    もちろん,共犯者間に上下関係があった場合には,別です。
    被告人が他の共犯者を指導命令できる地位にあったときには,被告人がカゴダッシュを指令したかどうかは問題かもしれません。
    ただ,逆に上下関係があったら,仮に被告人が言い出さなくても,要するに他の共犯者にそれを言わせたという認定になるので,結局上下関係の有無に尽きる話です。

    上下関係のない本件共犯者間では,誰がカゴダッシュを言い始めたかは全然問題になり得ないはずです。

被告人がカゴダッシュで盗ることを認識認容していた中にあっては,カゴダッシュを被告人が言い出さなかったとしても,被告人の量刑が変わることはありません。

そんな些末な事実の食い違いだけで,
70年の古い歴史のある会社が,5か月の勤務の中で,寮を提供し,身元引受人になり,なおかつ保釈金まで出してくれる。そして,被告人は犯罪事実は全部認めることを予め確約し,かつ検察官請求予定証拠も全部認めると確約する中で,何故このように,頑なに保釈を認めないのか?


【重要な情状事実】
犯罪によっては,起訴状の犯罪事実として書かれていない情状事実であっても,意見が割れていることをもって,保釈を認めないということは,もちろんないわけではないです。

例えば,その典型例は傷害罪です。
無差別の傷害,つまりは被害者に何の落ち度もない傷害の例もある一方で,日ごろいじめを受けていた被害者が,いじめの加害者に傷害を負わせたような原因存在型の事案もあります。
後者の例では,起訴状の犯罪事実に書かれない背景事情が量刑の上で大事になってきます。その背景事情につき大いに争いがあると,確かに刑事裁判は紛糾します。
まさに背景事情が主要な争点になるわけです。

傷害罪につき,「被告人が起訴状に書かれた犯罪事実だけを認めても,まさに重要な情状事実につき争いがあれば保釈できない」というのならば,まだ理解できます。

    しかし,万引き窃盗は,どう見ても被害者に全く落ち度がない例に該当します。
    それこそどんな弁解をしても,そしてその弁解する事実が存在したとしても,決して量刑を負けてくれることはありません。

    つまり,万引き窃盗の場合に,カゴダッシュを誰が言い出したかは,(量刑に影響する)争点にはまずなり得ないのです。
    なお,前記のとおり,上下関係は争点になり得ることです。主犯格と従犯格の区別があれば量刑に影響するからです。


【覚せい剤の入手先も重要な?情状事実だが】
なお,保釈でよく議論される情状事実に関する事例で,覚せい剤自己使用の罪があります。

その犯罪事実そのものは認めていたとしても,その覚せい剤の入手先を言わない場合,その不供述が重要な情状事実に当たるとされているのです。
しかも,何十年も前は,入手先が言えないというだけで,保釈は却下されていました。

    しかし,公判で入手先が争点になることはほとんど無く,量刑に影響することも皆無に近いことから,その入手先を言わないから罪証隠滅のおそれがあるとして保釈を認めないという例は今ではかなり少ない筈です。

    つまり,犯罪認定が動かず,かつ量刑にも影響しない,公判の争点になり得ないような事実に黙秘や否認があっても,罪証隠滅には繋がらないということだと思います。

こうしてみると,本件のカゴダッシュを誰が言い出したかは,この覚せい剤の入手先の事実に匹敵する,いわば些末な事実についての食い違いでしかないことになると思います。


【供述の食い違い=罪証隠滅というのは論理の飛躍】
我々弁護士が,声を大にして,裁判所に主張しておかねばならないことは,
「供述の食い違い=罪証隠滅というのは論理の飛躍だ」ということです。

犯罪事実でもなく,量刑にも影響がなく,公判の争点にもならない,影響力の乏しい些末な事実について,他の共犯者や被害者等との間で食い違いがあるからといって,刑訴法89条四号所定の「罪証隠滅」には当たらないということです。

公判に影響しない事実なのに「罪証隠滅」というのは背理だからです。


【後日談】
裁判所は,判決にあたり,「被告人しか車に乗れないところ,被告人が車を出したから,本件犯行が可能になった」と認定して,検察側に救いの手を差し伸べました。
上下関係の認定はなかったので(調書では全員否定的でしたから),それくらいしか指摘出来なかったのだと思います。

しかしながら,共犯者は全員万引きの常習者ですから,被告人が車を出さずとも,勝手に万引きしてくるようなヤカラです。
そもそも車を被告人が出したこと,出すに至った経緯は寸分違わず全員一致した意見でした。供述の食い違いは皆無

これらからして,何故検察や裁判所が頑なに保釈を認めなかったのかは謎です。

頭が固すぎると思います。

    5か月の働きぶりを見て,70年の歴史のある会社の社長が,寮まで提供し,身元引受人にもなり,保釈金も出すと約束してくれているのに,よくもまあ,ここまで意地悪ができるものだなと思いました。
    よくもまあ,被告人の真の更生に向けた民間の努力を無為にするものだと残念に思いました。

    裁判所や検察は,自らの品位を落とすようなことはすべきでは無いと思います。

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