920 非親告罪の窃盗や傷害は,被害届が取り下げられても勾留は続く

窃盗犯人の被疑者やその支援者が勘違いしていることは,
被害者と示談が無事成立し,幸運にも窃盗の被害届が取り下げられても,勾留は続くこと。

それは,親告罪ではないので,被害届の取下げがあっても,
警察検察の捜査権限が喪失しないからです。
極端に言えば,取り下げられても,理論上起訴はできます。
罰金くらいは平気でやれるでしょう。

よく考えれば分かることですが,
窃盗というのは,実は,余罪があることが相当多い。
例えば,20件,30件連続窃盗をしているなんてこともある。
私のかつての経験でも20件くらいの犯人はいました。
裁判官の先輩は,100件という犯人もいたと言いました。
判決の末尾に別表といって,犯行一覧表を付けるのですがそれだけでも大変です。

100件は大げさとしても,仮に10件発覚して,全部被害届が出されたとしします。
しかし,例えば被害者がお優しい土地柄の人達で,
10件全部示談が早々に成立して取り下げられたとします。

そんな常習犯なのに,その時点で身柄釈放はどこかおかしいと思われる方も当然いらっしゃるはずです。

それでなくとも,窃盗犯人は,
過去発覚していないだけで万引き等が多かったりはよくある話です。
検察官,裁判官,そして弁護士は皆それを知っています。
そこそこ立派な?窃盗をするまでに,幾多の小さい窃盗が隠れている,
小さい窃盗を重ねるごとに良心を麻痺させてきた例は多く見聞します。

更には,被疑者が,無職や住所不定だったり,
サラ金まみれだったり,生活が荒れていることも多くあります。

要は,窃盗事件は奥が深すぎるのです。
どんなに最低でも,再犯のおそれが極めて少ないことの確実な証明が必要です。
「被害届が取り下げられたんだから,さっさと出せよ」とか
「何故出られないんだ」などと,責めないで欲しいのが本音です。

    元々,犯人や弁護人は,被害者にひたすら平身低頭謝罪する立場です。
    被害届の取り下げのお願いをすること自体大変困難なことです。
    いくら被害者とお話しをさせていただく中でも,
    話の流れの中で,被害届の取下げ依頼は,
    ほとんどの場合,唐突なお願いになります。
    しかも迷惑を受けた被害者にとって不愉快千万な要求です。

    被害者が弁護士と会ってくれることだって本来感謝しなければならないのです。

    工夫に工夫を重ねて,やっとの思いで被害届を取り下げてくださったと思った矢先,
    「じゃあ,早く出してくれって,検察官に言えよ」
    と言われると,少しかちんと来ます。

    もし被害届取り下げにより身柄釈放の権利が発生するなら,「分かりました」ですが,あくまで身柄釈放のお願いをするだけです。

    しかも前記のとおり,起訴も可能です。
    あまりせっつくと,検察官は,じゃあ「早く起訴して(捜査勾留だけは終わらせて)やる」と開き直るかもしれません。
    まさにやぶ蛇です。

    ですので,「こんなに苦労して被害届の取り下げをしてもらったのに,まだ言うか」
    と正直思います。

    特に,1件だけでなく,数件同時に犯行している場合は,
    他の被害者にも同じことをしろと言われるわけですので。

被疑者が,我が身可愛さにそう思うのは勝手ですが,
被害者がどう思うか,公平な第三者の目にはどう映るか
を考えて欲しいというのが,本音です。


【傷害事件は?】
傷害事件も非親告罪なので,たとい被害届けの取り下げがあっても,
起訴はまったく可能です。

重篤な被害になることも多くありますし,
最近では無差別的な犯行もあります。
今後日本でもテロがあるかもしれません。
(このような悪質事案で被害届の取下げがあるとは思いませんが。)

比較的軽微な傷害で,しかも被害者が良心的な方の場合,
示談や被害届取り下げによって,早期身柄釈放もないではないです。

    しかし釈放になるには厳しい条件があります。
    そもそも前記のとおり,
    1 被害が比較的軽微であることが必要です。
    その上で,少なくとも
    2 弁護士が介入した示談であること,
    3 示談内容が確かなもので,被害者が宥恕する足りる合理的な内容があること
    (民事損害賠償としてみても相応の手当がなされていること)
    4 同種事犯・余罪・前科がないこと
    5 示談後に被害者に直接警察に来て貰い,示談の意思や取り下げの意思が,現実に備わっていることを所管の警察官が確かめることができた場合
    だと思います。

    釈放には最低5つの条件が必要です。

ただ,どんな理由があっても暴力はいけません。
前記条件が揃っていても,暴力を振るう人は許さないというのが
日本人の大多数の考え方であることは忘れてはなりません。

要は,前記5つの基準をもっともっと厳格にすることは,今後当然あり得ることです。
→後注)


    後注)
    なお,重篤な傷害事件は,起訴後の保釈も認められないと思って下さい。

    私が若い頃,酷い傷害事件で保釈請求却下に対する準抗告の審理を引き受けたことがありました。
    被告人が保釈請求を却下されたので,不服申立てをしたのです。
    私は,詳しく理由を書いた上,準抗告を却下する決定を仕上げて,部長裁判官に上程しました。
    準抗告は合議体の審理となります。

    すると,部長は,私の書いた理由をほぼ全部消して,簡単に書き直しました。
    それは,
    1 犯行事実を要約して掲げ(3,4行)
    2 このような事案の特質に鑑みれば,保釈の準抗告を却下する。
    以上,です。

    これは,決定理由につき「事案をして語らしめる」書き方です。
    酷い傷害事件を内容を書くだけで,その内容自体がそのまま保釈を認めない理由になるからです。

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