742 証人の涙を裁判記録に残すには

私は最初,刑事裁判所に配属されたのですが,
そのまさに法律家になりたてほやほやの,6月ころの話です。
強盗致傷事件が係属しました。

当時はもちろん,裁判員裁判はありません。3人の裁判官の合議事件となります。

    中年の方が被害者でしたが
    東北出身の如何にも純朴ですれていない人が,
    京都への旅行中に飲み屋で初めて出会った,
    酔っ払い(の振りをした)2人組と意気投合して
    (少なくとも被害者はそう思って)
    しばし楽しく一緒に飲んでいました。
    東北出身の方は気を許して,2人にお酒を奢ったりもしていました。

    ところが,その2人組は,甘言を弄して外に連れ出し,
    暗がりにおびき寄せて殴る蹴るの暴行をして
    所持金を全部奪ったのでした。

    おそらく計画的に近づいたのだと思います。



被害者は,東北から遠路はるばる京都の裁判所まで証人として呼ばれ,
証人尋問が始まりました。

その方は,尋問の大半の時間をはきはき,そして明るく証言していました。

でも最後の方,クライマックスになると,はきはきは変わりませんが
突然涙をポロリポロリ流し始めました。

締めくくりに,裁判長の補充尋問がありました。
「今,あなたが,涙を流されているのは,どういう訳ですか?」
と優しい声でお聞きになりました。

すると,被害者:
「当時を思い出すと,口惜しくて,口惜しくて堪りません。」と。
(この答えをもって尋問は全て終了)


そうです。
涙を出して泣いている様子までは通常記録に残せないのです。

当時,裁判所の速記官が証言内容を速記してくれていましたところ,
専門の速記官は,その証人の言葉をとにかく忠実に拾うだけになります。

    泣き崩れて証言が途切れ途切れになる状態までいけば,
    場合によっては,速記官によって,調書にそれらしい表現が加わるかもしれません。
    ただやはり「泣いている」旨の表現が調書上に載らないと,
    単に証人がどもったりつっかえたりしているだけに読めてしまうかもしれません。
    それでは不十分です。

    しかも前記東北の証人は,泣かれても言葉が乱れることはなかったのです。

書記官も,裁判長の訴訟指揮等や検察官と弁護人の法律意見等について,
裁判手続調書に残すのみです。それは,法律に書いてある事のみです。
法律に証人の涙を書き残せとは書いてありません。



それで,裁判長が,証言調書に言葉として載るように,
涙及びその理由を問いと答えの形で言語化(音声化)したのです。
その時,さすがベテラン裁判長と思いました。

    実は,尋問の順番は,検察側証人の場合,
    ①検察官,②弁護人,③検察官(+弁護人)
    ④裁判官の左陪席(私),⑤右陪席,⑥裁判長
    と裁判長は最後の最後の質問者なのです。

    ①から⑤のメンツで,②や新米の④(私)はまあともかく,
    誰も涙を調書に残す試みはしていないのです。
    ⑤の右陪席は,エリート中のエリート裁判官でした。

それからしても,裁判長は,さすが経験豊富だなと感心しました。
(ただ,後で知ったことですが,嘘泣きは駄目です。
唐突なことが多く,当該証言部分がなんか「クサイ」
テクニックだけを弄しても無駄です。)


なお,その裁判長は間もなくご栄転されたため,
私がお付き合いさせていただいた期間は極短かったです。

その裁判長が,その短い間にも言って下さったお言葉:
「人の信頼を裏切る犯罪が最もいけないんだよ。」
この言葉は,以後ずっと焼き付いて離れません。

    と申しますのも、法律の世界に身を置くと,
    口八丁の人が目立ち,いくらでもへ理屈をこねられる人ばかりです。
    その出口を見出す手がかりの1つが「信頼の破壊」という切り口だからです。

    理屈はやたら上手だけど,何かおかしい売国奴がまさにそうかもしれません。

    また前回のブログ(→741)でいえば,他人の事件を横取りする悪徳弁護士も,
    毎回書類を渡しているのに,つまりその都度打ち合わせの機会もあるのに,
    突然全部一式揃えて寄越せという方も,信頼できません。
    所詮長くはおつきあいする価値のない方です。

たしかに冒頭の事件も,意気投合しているように見せかけておいて,
その信頼を突然裏切り,犯罪の餌食にしたものでした。

                    -byフローラ法律・岡崎 from 2013.3.24-

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